税務調査に関する法律において、このような規定がありました。
(国税調査官は)「帳簿書類その他の物件を検査することができる。」
つまり、税務調査において、調査官は帳簿書類などを検査(見てチェック)することができるよ、という規定です。
これが改正されて次のように変わりました。
(国税調査官は)「帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件の提示若しくは提出を求めることができる。」
微妙に法律の文言が変わっただけなのですが、法律の文言をいちいち変えるぐらいですから、そこには意味があります。
改正前の法律を厳格に解釈すると、「調査官は、帳簿書類などをチェックできるだけ」なのですが、
改正後は「ただチェックするだけではなく、必要があるのであれば、
コピーなどの写しをもらっていくことまでできる」ようになったということです。
以前の税務調査から、調査官からコピーが必要だと言われれば、
会社の方でコピーを撮ってあげて、それを調査官に渡していたのですが、
実はこれは法律上の解釈では成り立たない行為でした。
つまり、調査官から「コピーを欲しい」と言われても、
「いやいや、その場で見てチェックしていけばいいではないですか!?」と言えば、
調査官も「仕方ないですね」と言わざるを得なかったわけです(実際には感じが悪いので、そのような対応をしないわけですが)。
これが法律の改正によって、会社などその場でのチェックだけではなく、
調査官も堂々と「持って帰りますので、提示だけではなく提出してください」と言えるようになったわけです。
これはもちろん、コピーだけの話ではなく、必要なのであれば帳簿そのものや、請求書・領収書などの原本・現物も含めたものです。
社長の知らないところで法律は改正にされ、それによって税務調査のやり方も変わっているわけです。
この改正によって、調査官の権限レベルが上がったといえるでしょう。
また、これに加えて、「留置き」の制度が新たにできることになりました。
難しい言葉で、かつ新たにできた法律ですが、意味合いは簡単です。
調査官が必要だと判断するなら、みなさんが調査官に提出した帳簿や書類などを、ずっと預かることができるというものです。
すでに税務調査を受けて、調査官に書類などを貸したことがある社長であればおわかりの方もいるかもしれませんが、
帳簿書類を貸し出すときには、「預り証」なる書面を調査官が発行します。
「これとこれを税務署で預かりますよ」と約した書面です。
しかし、この貸し出すという行為は、あくまでも改正前は会社側の「任意」なわけです。
調査官が「貸してほしい」と言っても、嫌だといえば断れます。また貸したとしても、経理業務などで必要な場合は、
「今すぐ返却してほしい」といえば、調査官も任意で借りている以上、その要望を断ることができないのです。
改正前まではこのように、会社の意思で断れたりもした帳簿書類の貸し出しが、
改正後は法律で明記される以上、会社の「任意」ではなく、調査官の「権限として」できるようになるのですから、
前項と同じく、調査官の権限レベルが上がった、もしくは新たな権限が追加されたと言っていいでしょう。
ちなみに改正後で、いったんは貸し出すにしても、「業務に支障をきたすので、返却してください」と調査官に依頼すれば返却してくれるのか、
もしくは、いつになったら返却されるのかについては、法律上明記されていることではありません。
正確に説明しておくと、法律にはこう書かれています。
「留め置いた物件につき留め置く必要がなくなったときは、遅滞なく、これを返還しなければならない」
これでは、調査官(税務署)の判断で、返却するのかしないのかを決めることができることになり、
貸した会社が圧倒的に不利になります。
どちらにしても貸し出さなければならないのであれば、面倒ですが、コピーをとってから渡すようにした方が無難だと言えます。
またこの制度ができても、
調査官は何らかの書面(「預り証」ではなく「留置書」のような名称になるのかもしれません)を発行することは変わらないものと思います。